イガワテック 井川社⻑
自動車業界の進化とともに、金型メーカーも変革を迫られている。井川設計事務所から始まり、現在では大型・高難易度金型の設計・製作を手掛けるイガワテック。その歩みは、挑戦と革新の連続だった。本稿では、同社の創業からの歩み、経営哲学、技術革新、そして未来展望を探る。
創業からの歩み
イガワテックの原点は、プレス金型設計会社「井川設計事務所」にある。1972 年創業当初はマツダの外板部品や骨格部品の設計を担い、その後、製作部門として「井川機工」を設立。手のひらサイズの小物部品金型から始まり、設計ノウハウを武器に徐々に大型部品へとシフトしていった。現在では、ルーフやフロア、ダッシュパネルなどの金型、さらには超ハイテン材の金型まで、幅広く対応する企業へと成⻑している。
この 50 年の歩みは単なる規模拡大ではない。設計から製作までを一貫して担う体制を築き、難易度の高い部品に継続して挑戦してきたことでノウハウが蓄積され、業界内で「ハイテンに強い会社」として評価されている。
経営哲学
転機は 2015 年。井川貴史社⻑は、副社⻑として 13 年間務めた後、40 歳の節目で事業を承継した。「NO.1 と NO.2 の違いは天と地ほど」と語るように、その重圧は計り知れない。「覚悟はしていたものの、1 年を終えたとき、安堵感からか 5日間寝込んだ」と振り返る。演じていた部分や気を張っていた緊張が、一気に解けた瞬間だったのだろう。
社⻑就任時に掲げた⻘写真は明確だった――大型金型と高難易度案件への挑戦である。2015年、2017 年に大型の門型5軸マシニングセンタを導入。また、2017年に AutoForm 導入し、これを契機として、当社で扱うすべてのハイテン材部品について、福岡工業技術センターへ依頼し、引張試験および引張圧縮試験を実施する取り組みを開始。その後、2019 年には 1500 トンメカプレスを導入し、2021年にはCAEに正確な材料パラメータを入力するための万能材料試験機を新たに導入。技術基盤の強化を一歩ずつ積み重ねてきた。これらは単なる設備投資ではなく、将来を見据えた確かな布石だった。
同社の強みは技術力だけではない。若手社員の比率が高く、新しい取り組みに前向きな風土が根付いている点も大きな特徴だ。また、「信頼度ナンバーワン」を掲げ、顧客からの信用を何よりも重視する姿勢が、企業としての軸を形づくっている。

経営においては、「現状維持は衰退」という価値観を重視する。新しい技術や道具の導入可能性を常に探り続けるその姿勢こそが、同社の継続的な成⻑を支えているのである。
デジタル技術の導入と解析環境の高度化
デジタル技術の導入は段階的に進められてきた。2004 年にはじめて CAE を導入し、解析精度の向上に取り組みノウハウを蓄積してきた。導入当初には社内から不満の声もあったものの、「製作前に不具合を予測できる」という CAE の価値を粘り強く説明し、目的や効果を共有しながら運用を定着させた。
「現状維持は衰退を意味する」という信念の同社において、AutoForm 導入は、その象徴的な一歩だった。2017 年、ハイテン材採用の進展を背景に早期検討の共通ツールとして広く普及しているAutoFormを導入した。AutoForm導入前は780MPa級材料までが主流であったが、導入後は780MPa級から1470MPa級までの超ハイテン材についても、見込み反映済みの状態で金型検討を行えるようになった。
2021 年に材料試験機を導入し、解析精度の向上に大きく寄与している。現在は、金型設計前の解析と金型削り前の解析の二段階解析体制を構築したことで精度向上と解析時間の短縮を実現。年間の見込み修正回数は平均 5 回から2 回へと減少した。その後、1180MPaを中心に1470MPaまで拡大したことで、一時的に見込み修正回数は平均5回まで増加したが、現在では平均3.5回程度まで低減させることができている。また、AutoForm は顧客との共通言語として機能し、信頼関係の構築にも寄与している。その結果、構想検討など、従来は顧客が担う業務の依頼増にもつながっている。
デジタル技術の活用が不可欠であるという考えは社⻑が若手時代から一貫している。展示会に足を運び、新たな道具を探し続けてきた。この姿勢は現在同社に広く浸透し、若手が積極的に新技術へ挑戦する風土の形成につながっている。
未来展望について
「金型業界はよりグローバルな競争になる」と社⻑は見据える。特色のない企業は淘汰され、AIによる自動化と人の技術のすみ分けが進むだろう。イガワテックは、自動車業界に加え、他分野への挑戦も視野に入れる。「規模ではなく、信頼度ナンバーワン」を掲げ、次の 10 年 に挑む。
挑戦と革新を続けるイガワテック。その歩みは、単なる金型メーカーの枠を超え、未来のものづくりを切り拓く物語である。