エムケイケイ伊藤社⻑
自動車産業が歴史的な転換期を迎える中、金型メーカーには、従来の“勘と経験”に依存したものづくりから脱却し、デジタル技術を核とした競争力構築が不可欠となっている。本ホワイトペーパーでは、1966 年創業の老舗金型メーカーが、事業承継という大きな節目を乗り越えつつ、AutoForm 導入を契機に事業構造を刷新し、新規顧客開拓やコスト削減を実現してきた変革のプロセスを紹介する。
デジタル化が進みにくいと言われる金型業界において、同社はどのように技術獲得・人材育成・経営判断を進めてきたのか。事例を通じて、これからの製造業が進むべき方向性と、経営視点での示唆を提示する。
企業概要と歩み
エムケイケイは 1966 年に原茂氏により創業し、地域に根ざした金型メーカーとして事業を展開してきた。創業以来、トヨタ系サプライヤーの金型製作を中心に確かな技術力で事業を拡大。2025 年 1 月 1 日より伊藤和幸氏が取締役社⻑に就任し、新たな体制で事業を推進している。伊藤氏は、入社以来、設計領域まで深く関わる中で、同社の将来に必要なデジタル技術の重要性を体感していた。大きな取引先である既存顧客との関係性は変わらず継続しているが、自動車業界全体として生産量の先行きに不透明感がある中、新規取引先を開拓し、取引先を拡大する。同社は決して大規模ではないものの、経営の効率性により、激しい市場変動の中でも安定操業を行っている。業界の先行きが読みにくい状況において、伊藤氏は「デジタル化による競争力強化」を最優先テーマとして位置付けている。特に、従来大きな取引先依存だった事業構造からの脱却は、社⻑就任前から強く認識していた課題である。
AutoForm との出会い
古くからの取引先からは工程図が支給されていた。一方、他社からは部品図のみで見積依頼をいただくが、工程設計の技術が不足していたため、見積そのものが不可能という課題が存在していた。この危機感から伊藤氏は「CAE 導入の必要性」を強く感じたことが大きな転換点となった。先代は2014 年、NPO 法人 CAE 支援ネットの立ち上げに理事として参画。伊藤氏はここで、成形シミュレーションを基礎から学び、金型設計のデジタル技術を吸収した。
そうした中、AutoForm を体験する機会を得た。その圧倒的なスピードに衝撃を受け、「工程設計のツールとしての必然性」を確信する。そして、AutoForm の試用を通じて、コスト削減効果を年間1200 万円と試算した(型改修回数:1 部品あたり1〜2 回削減・型改修コスト:1 回 100 万円・初品部品数:年間 12 部品)。この明確な投資対効果を根拠として正式導入を決断した。
AutoForm の導入の効果
同社にとって単なるツールの採用ではなく、事業の幅を大きく広げる転機となった。従来は工程図が支給される既存顧客関連の業務が中心だったが、AutoForm を活用して工程設計から対応できるようになったことで、他メーカーからの受注が実 現 。 現 在 で は AutoForm-Compensator やAutoForm-Trim などの製品も取り入れ、より高度な工程検証や最適化が可能になっている。これは、同社が“受け身の金型づくり”から“提案型の金型メーカー”へと進化したことを意味する。
社内体制にも変化が表れている。従業員は 14 名とコンパクトだが、AutoForm 担当者の引き継ぎを進めながら、工場⻑と連携し、組織としての生産性と品質向上に取り組んでいる。小規模だからこそ意思決定が早く、新しい技術を全員に浸透させやすいという強みを持つ。現場の理解度が高まり、工程設計の精度を裏付けるデータが蓄積されることで、ものづくりの質が着実に底上げされている。
業界内における同社の存在感も変わりつつある。
まだまだ多くの企業が依然として“勘と経験”に依存している中、デジタル化を積極的に推進する同社は異彩を放っている。従来型のアプローチから脱却し、デジタルを前提とした工程設計へ向かう姿勢は、業界内でも新しい価値観を示しており、周囲からも一目置かれる存在になりつつある。こうした前向きな変革が進む一方で、課題も明確だ。AutoForm のバージョンアップに伴い、新機能や新しい操作体系へのキャッチアップが十分とは言い切れず、より深い使いこなしに不安を抱えているという。単にツールを使えるだけでなく、業務の質をさらに引き上げるためには、最新情報や高度な活用方法を継続的に取り入れる必要がある。同社としては、AutoForm のウェビナーやサポート体制の強化に期待しており、技術を継続的に磨き続ける組織づくりを目指している。
AutoForm 導入をきっかけに業務が進化し、新規顧客との接点が広がり、社内の技術継承も進み始めた。デジタル化の波にいち早く乗った同社は、金型業界の変革期において新たな可能性を切り拓こうとしている。その姿勢は、製造業が直面する未来へのヒントを示していると言えるだろう。

将来ビジョン
同社は今後、金型のデジタル化と AI 活用を軸に、次世代に対応できるものづくり体制の構築を目指している。すでに非接触3次元デジタイザ ATOSを導入し、測定データを活用しながら、設計・製造・検査をデジタルでつなぐ仕組みづくりを進めている。これにより、職人の経験に依存していたノウハウを“部品カルテ”として残し、将来的に誰でも同じ品質を再現できる環境を整えつつある。将来的には人の判断と AI の分析力を組み合わせることで、AI が工程案や補正案を提案する仕組みを構想する。同社の視線はすでに未来へ向けられており、デジタルと AI を組み合わせた新しい価値づくりに挑戦し続けている。
まとめ
同社の歩みを振り返ると、大きな危機を乗り越えつつ、事業承継と同時にデジタル化へ踏み切ったことで、着実に競争力を高めてきたことがわかる。特に、既存顧客依存からの脱却と、CAE・AutoForm導入による工程設計力の獲得は、単なる IT 導入ではなく、事業モデルそのものを変える決断だった。これまでの挑戦が確かな土台となり、同社がさらに飛躍していくことが期待される。